技術コラム
プラスチック金型に使用される鋼材(材質)とは?
プラスチック金型に使用される鋼材(材質)
プラスチック金型に使用される鋼材(材質)としては、鋼(スチール)が一般的で、通称プラスチック金型用鋼と呼ばれます。鋼は、炭素を含む材料です。材料中の炭素量によって硬さや強度が変化します。炭素量が高いと材料は硬くなりますが、強度は低下します。逆に、炭素量が低いと材料は柔らかくなりますが、耐久性が向上します。
一般的に、鋼と呼ばれる材料は、炭素の含有量が基本的には2%以下です。ちなみに、炭素が非常に少なく、0.02%以下のものを一般的に「鉄(鈍鉄)」、炭素が2%以上のものを「鋳鉄」と言い、炭素の含有量の違いによって「鉄」「鋼」「鋳鉄」と分類されています。
炭素の含有量が基本的には2%以下である鋼の中でも、
・炭素含有量が約0.3%以下のものを「低炭素鋼」
・炭素含有量が約0.3〜 0.765%のものを「中炭素鋼」
・炭素含有量が約0.765%以上のものを「高炭素鋼」
と言います。
これら鋼の特徴としては、①弾性が高い、②靭性が高い、③動的強度に優れる、④熱伝導率が高いなどがあります。
このような金属材料の特性から、射出成形の金型材料として、鋼が用いられることが多いです。
プラスチック金型用鋼の種類
プラスチック金型用鋼には、
・プリハードン鋼(SKD61等)
・アズロールド鋼(SC材、SCM材等)
・焼入れ焼戻し鋼(SKD11等)
などがあります。
プラスチック金型用鋼の種類は、以下の表の通りです。
名称 | 概要 |
プリハードン鋼 | PXA30、DH2F、NAK55、NAK80等 |
アズロールド鋼 | SC系、SCM系 |
焼入れ、焼戻し鋼 | SKD61、SKD11等 |
時効処理鋼 | マルエージング鋼、非磁性鋼、SUS系 |
耐久性や腐食性、摩耗性、そもそもの金型コストなどの観点から最適な鋼を選定する必要があります。
以下に、ミスミが推奨する鋼材を表にまとめております。
樹脂種類 | 推奨鋼種 | 鋼材に求める特性 |
PP ABS | S50C SCM440 | しぼ加工性 |
PS PMMA ABS | SKD61 プリハードン鋼 | しぼ加工性 鏡面仕上性 |
POM PA | SKD61 プリハードン鋼 | 耐磨耗性 |
PC PMMA | SUS420J2 析出硬化型鋼 | 鏡面仕上性 |
PC PMMA | SUS420J2 | 鏡面仕上性 耐食性 |
PVC | SUS | 耐食性 |
難熱ABS | SUS420J2 プリハードン鋼 | 耐食性 |
PBT-GF PA-GF | プリハードン鋼 SKD11 | 耐磨耗性 |
磁性粉入りPA | 非磁性鋼 | 非磁性 耐磨耗性 |
参照:https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/plastic_mold_design/pl07/c0496.html
プラスチック金型用鋼の硬さと鏡面性の関係性
以下に、各種プラスチック金型用鋼の対応可能な鏡面レベル(仕上砥粒のメッシュ No.)と鋼材硬さの関係性をグラフにして表しています。
一般的に、硬い材質ほど高品質な鏡面仕上げが可能とされています。
SC系、SCM系、およびSKD系は一般的に大気溶解法で製造され、析出硬化系やSUS系は特殊溶解法で製造される場合が多いです。また、鋼材の硬さで区別すると、約HRC45を境に、プリハードン鋼と焼入れ焼戻し鋼に分類されます。
プリハードン鋼は熱処理が不要で、金型製作のリードタイムを短縮できるという利点があります。そして、焼入れ焼戻し鋼は、プリハードン鋼を上回る硬度をもつため、耐摩耗性や靭性などの機械的特性、鏡面性において優れています。各種プラスチック金型用鋼にはこのような特徴、関係性があります。
プラスチック金型用鋼のブランド
プラスチック金型用鋼は、さまざまな鋼材メーカーから提供され、独自のブランドで製造・販売されています。同じ規格の鋼材でも、特性や熱処理方法が微妙に異なります。鋼材規格にはJIS規格で始まる「SC」「SK」「SUS」などの呼び名もあります。各メーカーはこれに対応した商品名で提供しています。
以下にミスミが提供するプラスチック金型用鋼のブランド対照表を抜粋したものを載せております。
分類 | 硬さ(HRC) | JIS相当 | 代表的なブランド |
アズロールド鋼 | 13 | SC系 | S50C S55C |
13 | SCM系 | SCM435 SCM440 | |
プリハードン鋼 | 13 | SC系 | PXZ |
28 | SCM系 | PDS3 | |
33 | SCM(改) | HPM2 HPM7 PX5 PX7 PLMAX IMPAX | |
33 | SUS系 | HPM38 S-STAR STAVAX | |
33 | SUS系(快削) | HPM77 G-STAR RAMAX-S | |
40 | SCM(改) | HPM-MAGIC | |
40 | SKD61(改) | FDAC DH2F ORVAR-S | |
40 | 析出硬化系 | HPM1 HPM-PRO CENA1 NAK55 NAK80 | |
33 | SUS420J2系 | HPM38 S-STAR | |
33 | SUS系(快削) | HPM77 G-STAR | |
35 | SUS630系 | PSL NAK101 | |
40 | SUS630系 | PSL | |
焼入れ焼戻し鋼 | 50 | SKD61系 | DAC DHA1 |
50~62 | SKD11系他 | SLD HPM31 DC11 PD613 | |
50~62 | SKD11(改) | SLD8 DC53 | |
50~62 | SKD12系 | RIGOR KD12 | |
52 | SUS420J2系 | HPM38 S-STAR | |
57 | SUS440C系 | SUS440C ZDP282(粉末) SUS440C DEX-P1 (粉末) |
参照:https://jp.misumi-ec.com/tech-info/categories/technical_data/td01/g0124.html
当社のプラスチック金型の製作事例
「プラスチック金型 修理・メンテナンスナビ」を運営する三恵金型工業が製作したプラスチック金型をご紹介します(各画像は成形品のCADデータです)。
自動車向け全周アンダーカット部品
新規の製品メーカー様から自動車部品の金型の設計・製作に関しましてご依頼をいただきました。
ご依頼の製品は、従来の設計では製品の内径にアンダーカットがあるため、成立しない形状となっておりました。
>>詳しくはこちら
設計段階で形状変更を行った66ナイロン製 集塵機部品
射出成形メーカー様から、「集塵機部品向けのプラスチック金型を製作したい」にということで、難度の高い金型実績やお客様の図面への改善提案で評価いただいている当社にご相談いただきました。。
>>詳しくはこちら
透明樹脂(トライタン)製 自動販売機部品
射出成形メーカー様から、「自動販売機の樹脂機能部品向け金型を製作したい」ということで、透明樹脂のような難しい成形品の金型にも実績が豊富な当社にご相談がありました。
>>詳しくはこちら
【製作実績10,000型以上】ご要望に合わせた金型提案を行います!
上記で紹介したように、お客様の使用用途や目的によって最適なプラスチック金型用鋼材は異なります。
例えば、ショット数が多く耐久性が必要であれば、一般的なS50CやS55Cなどの炭素鋼ではなく、プリハードン鋼や焼入れ・焼戻し鋼を使用する、あるいは耐食性を重視する場合にはSUS系を採用するなど、お客様のご要望に合わせて最適な鋼材、材質を当社では、ご提案させていただいております。
また、当社は焼入れ型を得意しており、延べ10,000型の製作実績がございます。そして、金型の設計、製作だけでなく、当社は修理・メンテナンス、洗浄・クリーニング、改造・修正にも対応しております。
プラスチック金型の設計・製作から、修理・メンテナンスまでお任せください!
プラスチック金型の設計・製作はもちろん、洗浄や修理、メンテナンス、改造まで、プラスチック金型に関してトータルサポートを行い、主に成形メーカー様の課題解決に貢献しております。
三恵金型工業は、金型修理の実績や成形不良対策のノウハウから、設計・製作まで豊富な実績と経験がございます。
プラスチック金型でお困りの際は、お気軽にご相談ください。